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東京地方裁判所 昭和37年(ワ)10191号 判決 1964年1月31日

理由

一、破産会社が精密機械の製作並びに販売を業とする会社であり、昭和三六年一一月八日被告が破産会社に対し注文した工作機械代金の前渡金の支払として原告主張のような約束手形二通を振出したことは当事者間に争なく、昭和三七年一月四日破産会社が支払停止となり、同月二四日破産会社に対する破産の申立があつたこと、同年四月三〇日午後一時破産会社が破産の宣告を受け、原告がその破産管財人に選任されたことは証人黒住一夫の証言及び弁論の全趣旨からこれを認めることができる。

二、そこで、本件手形の都民銀行に対する裏書の趣旨並びに割引の有無について判断するに、破産会社が、昭和三六年一一月八日被告振出にかかる本件手形二通を都民銀行に通常の裏書をなして同銀行から融資を受けたことは被告は明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。証人黒住一夫、同伊藤重利、同郡司一の各証言によれば、破産会社が本件手形により融資を受けようとして、都民銀行に手形割引を依頼したが、同銀行は右手形の満期までの期間が長いとの理由でこれに応じなかつた。そこで破産会社は、同銀行宛本件手形金相当額である金四、五〇〇、〇〇〇円の約束手形を振出し、かつ本件手形を担保手形として同銀行に差し入れて融資を受けたことが認められる。

右事実によれば本件手形の裏書に担保の趣旨でなされ、本件手形は割引を受けたものではなく手形貸付における担保として右銀行に裏書交付されたものということができる。

三、本件手形の買戻の有無について判断するに、昭和三七年四月上旬に都民銀行から破産会社に本件手形が返還されたことは当事者間に争いなく、証人黒住一夫、同伊藤重利の各証言によれば破産会社が支払停止となつたため被告が本件手形の返還を強く破産会社に求めて来たので、破産会社は被告に本件手形を返還しようと考え、都民銀行に対しその返還を求めたことは認められるが、本件手形が担保として都民銀行に差し入れてあつたこと前記認定のとおりであるから、破産会社が本件手形の被担保債権、すなわち前記融資金を返済して、その返還を受けたものと解するのが相当で、本件手形を買戻したものと解するのは相当でない。しかも証人郡司一、同黒住一夫、同伊藤重利、同野口英二、同飯村哲男の各証言(いずれもその一部)を綜合すると、破産会社の代表者黒住一夫は被告からの本件手形の返還方の要求に応じて都民銀行にその返還方を求めたものではあるが、その返還を受けるためには融資金を返済しなければならなかつたところ当時右銀行に対し有していた約四五〇万円の定期預金債権は他の債権者の弁済の引当にされており到底破産会社の自由に処分できない状態にあつたのでこれを前記融資金と相殺し本件手形の返還を受けた上本手形を割引の方法によつて現金化しようと考えていたもので都民銀行としては右のような相殺に異存はなかつたのでこれに応じ昭和三七年四月上旬に本件手形を右黒住に返還したもので、黒住は返還を受けてから本件手形を割引に廻していたが被告からの強い要求に合い数日後にこれを返還したこと、一方被告は本件手形振出の原因関係である取引関係がなくなつたのでその返還を要求したもので本件手形の都民銀行に対する裏書譲渡の事情については知らなかつたことを認めることができ、右認定に反する各証人の証言は措信せず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

以上認定事実からすると破産会社の被告への本件手形の返還は破産会社が義務なきに拘らず、被告の利益のためになしたものとは解されず、又都民銀行より本件手形の返還を受けたことによつて破産会社が財産(預金債権)を失つたとしてもそれと被告の本件手形返還による利得との間には直接の因果関係はないものというべく、破産会社の都民銀行からの本件手形の受戻し行為と被告への返還行為を目して原告主張のように破産法第七二条第一号もしくは第四号に該当するものとして否認権の対象とすることは適当でないと考える。

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